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相変わらず、山を縫う様にうねうねと湾曲した遊歩道が続く。
イチョウ、サクラ、モミジ、カエデ、サルスベリ。
幹の細い種類の異なる木々が、山の斜面に鬱蒼と生えている。
元々自生しているのか、それとも、植林され、時の流れの中でゆっくり野性的に変貌していったものなのか。どちらにも見える中性的な山だな、などと思う。
しばらくすると左の山肌にしめ縄の巻かれたでんと大きな一枚岩が現れた。
岩と土の境目に薄汚れた看板が立っていて消え入りそうな文字で『夫婦岩』と紹介している。
「夫婦?」
クエスチョンマークが頭に浮かぶ。岩に手を触れ巨大な全貌を隅々観察するも、それはやっぱりただの大きな岩だった。
普通、「夫婦何とか」と名称のついた自然は、同じ物が二つくっついているはず。
例えば、夫婦山と言えば山が二つ並んでいるし、どこかの観光地で見かけた夫婦杉も元は二本の杉の木が上部で一つに癒着したものだった。
『結奈、普通なんてこの世にないんだよ』
そういえば昔、海がそんなことを言っていたっけ。
あれはいつのことだったか。
そう思った瞬間、またかちゃりと心の扉が開いた。
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