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こちらを振り返った時、海はいつもの優しい海だった。
「結奈、普通なんてこの世にないんだよ」
「え?」
「智也はいい奴だよ。結奈は勘違いしている」
「えぇ?? 相田君がいい奴? 勘違い? わけわかんない!」
ムッとする私に海は困ったように笑って、いたずらっぽくおでこを小突いてくる。
「もう! ちょっと背が伸びたからって子供扱いしないでよ! 私のほうがおねえちゃんなんだからね」
「競争!」
笑いながら海が走り出す。
「え? ずるい~!」
私も慌てて駆け出した。
海の髪色と同じこげ茶色のランドセルがあっという間に遠くなっていくので、背中の赤いランドセルをカタカタ震わせながら必死に追いかけた。
肌を撫でる秋風はどこかの田んぼの稲わらの匂いを運んでいる。空には無数のアカトンボ。
頭の中にさっきの変な相田君がちらつくから、私は益々無心に走ったのだった。
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