0人が本棚に入れています
本棚に追加
世界で一番美味しいモノ(微ホラー注意です)
「まずい!!」
がしゃん。
大きな音をたてた彼女は不満そうに
シェフを睨む。
『あ~ごめん。失敗だったかー』
シェフ、彼は両手を合わせて謝罪をのべた。
「まったく!料理もまともに作れないなんて!作り手なんかより、素材にでも向いてるんじゃない?」
彼女は彼をストレスの捌け口にしている。
今日の料理は彼が初めて作った料理ではなく、彼女に作った18回目の料理である。
日々努力をし、試作を繰り返し、満足いくまで作り直したのだ。
だが、彼女はいつもまずいと一言。
彼はいつもこう言う。
「ごめん。次は美味しく作るから」
彼女は見向きもせず、彼を残してその場から去って行った。
次の日。
彼は弾むように料理を机に並べ、一輪の薔薇を真ん中に置いた。飲み物も薔薇とお揃いの真っ赤なシャンパンにした。
彼は彼女を連れてきて一言。
「君のアドバイスを取り入れた料理を作ったんだ。今日は記念品になるよ。君が美味しいと言ってくれる日」
屈託のない笑顔を彼は彼女に向けた。
「ほら、あーん」
彼女の口元に料理を運ぶ。
「あれ?お腹空いてないの?」
彼女は口を閉ざしたままだ。
がたん。
「大丈夫!?」
彼女は椅子から転んでしまった。
すぐさま彼は抱き抱え、彼女を椅子に座らせた。
彼女は微かに望みを口にした。
『・・・して』
彼は困った顔をして彼女を抱き締め、耳元で囁いた。
「君が美味しいと言ってくれるまで、料理を作るよ。愛しているよ」
最初のコメントを投稿しよう!