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シャワー
ふと気付くと、カーテンの向こうが薄っすら明るくなっていた。少し眠ってしまったらしい。
強ばった体をソファから起こす。細くカーテンを開けると、白い三日月が見えた。
夜明けを待つ町は、静まり返っている。この2LDKのマンションも同様だ。
どうせ、と思いつつも念のため寝室のドアを開く。ダブルベッドは、皺一つない。
もう一つの小さな部屋にも、人の気配はない。
尤も、この部屋に夫が入ることは、まずない。クローゼットも小さなデスクも、ほぼ泉美の物で埋まっている。ここへ越して来たとき、子ども部屋として使うことも想定していたが、その機会は訪れなかった。
最後に、玄関を確認する。たたきには、泉美が昨日履いていたパンプスがあるだけだ。
滅多に履かない9cmのハイヒール。視界に入れておくのが不快で、泉美はそれをシュークローゼットに突っ込んだ。
夫を待ちながら朝を迎えてしまったことは、もう何度となくある。その度に熱いシャワーで目を覚まし、何事もなかったかのように一日を始めていた。
習慣的にバスルームに入り、強くシャワーを受けたところで、ふと動きを止めた。
頬を水滴が伝う。
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