シャワー

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なぜ自分は、こんなことをしているのだろう。その必要もないのに。 今日は、仕事もなければ、用事もない。休日を共に過ごす人もいない。 夫は、今日も帰って来ないだろう。徹夜も強いられる仕事だが、帰宅しない理由が仕事だけではないのは、とうに気づいていた。 だったら、どうすれば良かったのだろう。昨日会った女のように、泣けば良かったのだろうか。 衆人環視の中で、まさか泣き出すとは思わなかった。 夫と別れてほしいと女は泣いた。あまりの馬鹿馬鹿しさに、泉美は怒りも嗤いもしなかった。もちろん、涙なんて出るはずもない。 己を鼓舞するつもりで履いてきたピンヒールは、何の役にも立たなかった。相手は、妊娠の可能性を慮って、ヒールの高い靴は履かないのだと言った。 泉美は、ヒールを履いたからといって、無闇に転ぶような真似はしない。腹が大きいわけでもないのに、自分の選んだ靴で転ぶ想定が出てくること自体が、理解不能だ。 無用の心配をし、人目を憚らずに泣きながら人の夫を譲ってほしいと懇願する女の愚鈍さに驚いた。正直、打ちのめされたのだと思う。こんな女に惹かれるような男と、なぜ自分が結婚してしまったのだろうかと。     
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