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穴持たず
ケンは裸眼ながら向かいの山の斜面に立つ牡鹿を発見した。背中にスリングで背負っていたライフルを体の前に持ってくると、右手でボルトを引いて閉鎖された機関部を解放する。30口径の実包1発を押し込めてボルトを元の位置に戻す。
彼は腹這いになって銃を構えた。左手を開いて親指と人差し指の間に銃を置き、右頬に銃床を当てる。4倍率スコープのカバーを外して彼は鹿の姿を捉えた。しばらく彼は観察に努めて情報を集める。距離は彼からしてみればそこまで離れているというものではなかった。気圧が低く曇り空なのは彼に好都合だったが、風を読む難易度は高かった。
やがて銃の安全装置が解除された。彼は胸や首の辺りに狙いを定め、その後に高低差を配慮して若干上に調整をする。今や彼は息をすることも忘れていた。引き金を引き絞るのに必要な右手の人差し指を除いて彼の体は全く動かなくなった。
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