第二章

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 虎はぶつくさと呟きながら辺りを物色し、ひょいひょいとふところに何かを収めた。 そして、まるで散歩にでも出かけるような足取りで、すたすたと野盗の集団に近寄っていく。  わざとらしく足音を立てたので、野盗のほうも虎に気づいた。 見るからに剣士である虎を、警戒するような顔つきで睨みつける。 「なんだ、この野郎は?」 「おまえらが探してる連中な、見つからないぞ」 「な、なんだと!?」 「そいつらは、そのあたりで腐ってるはずだ」 「なにい、ふざけるな!!」 野盗たちはばらばらと得物を抜いた。 蛮刀を抜くもの、短剣を両手に構えるもの、手槍を持っているものもいる。 虎はふところに手を入れ、ひゅんと手首を閃かせた。 四人の野盗たちの影に隠れ、ひとりの男が呪文の詠唱に入っていた。 「アザ=シロド=メカラ=ラムロ・・・ぼっがあッ!!」 その男の口許に、めきりと尖った石がめり込んだ。 野盗たちの間隙をぬい、虎が先程ひろった石ころを、親指で撃ったのだ。 投石器(スリング)かなにかを用いたような、尋常ではない速度だった。 「どの魔法使いも、詠唱中は無防備だな」 魔法使いとおぼしき野盗は、顔面から血を流してのた打ち回っている。 前歯が何本か折れたようだった。 虎は連投する。 次々と野盗どもの顔面に、飛礫(つぶて)が炸裂する。 「女、この隙に逃げろ」  虎はぼそっと告げた。  呆然と事態を見守っていたセシリアは、その言葉でハッと我に返ったようだった。あわてて駆けだした。
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