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農夫の懇願を聞いても男は、何の感銘も受けた様子がなかった。
ただ「金か、命か」と繰り返しただけだった。
農夫は観念したようすで、懐から口を紐で縛った革袋を差し出した。
「ごくろうさん。銀貨五枚、銅貨が六枚か。まあ、こんなもんか」
「どっかにまだ隠し持ってんじゃねえのか、素直に出したほうが身のためだぜ」
背後の野盗がどすのきいた声で脅しをかける。
「と、とんでもない。それで全部だ。それでも稼いだ方なんだ」
それでも信じない野盗たちは農夫の体を探ったが、何も出てこない事を知ると、舌打ちして石ころを蹴とばした。
「仕方ねえ、これだけもらっておくか」
「おい、ご苦労だったな、礼を受け取ってくれ」
荷台に座っていた野盗が立ち上がり、刺さったままの蛮刀を引きぬいた。
「ま、待ってくれ、約束が違う!!」
野盗たちは顔を見合わせると、げらげらと笑いはじめた。
「残念だが俺たちは物覚えが悪くてよ、約束はすぐ忘れちまうのよ」
男は荷台から飛びおりた。
農夫は後ずさるが、背後の野盗に背中を押され、前へつんのめった。
笑みを浮かべた野盗は、蛮刀を上段に大きく振りかぶった。
「ひいっ」
農夫は両目を閉じて、死の衝撃を待った。
頭上で、硬質の音が響いた。
「・・・・・・・・・・・・?」
何事も起こらない。
農夫がこわごわ目を開けると、彼の頭上で蛮刀が止まっている。
もう一本の剣によって。
鋭く、長大な剣だった。
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