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いつのまにか、少し離れた位置に、見知らぬ男が立っている。
異様ないでたちだった。
一見するに、剣士のようにも見えるが、鎧は着用していないようだった。
農夫がこれまで見たこともない服装だった。
あれが噂に聞いた、どこか遠い国の民が着用するというキモノだろうか。
その蒼いキモノと、雨避けのマントを身にまとい、足にはブーツを履いている。
足元に転がっているずた袋は、男の手荷物だろうか。
男は、口許に不敵な笑みをたたえたまま、無言で剣を突き出している。
それにしても奇妙な形をした、長い剣だ。
背にでも背負わないと持ち運びができまい。
その長さが野盗の蛮刀から、紙一重で農夫の命を救ったのだ。
「なんだてめえ、どっから現れやがった。邪魔する気か?」
男は応えない。口許にほのかな笑みを浮かべている。
次の瞬間、不思議なことが起こった。
野盗が男の剣に吸い込まれるように倒れる。
血しぶきが舞った。野盗の首筋から。
「な、なにが・・・」
野盗は自分の身に何が起こったのか、理解できない表情を浮かべたまま、血の泥濘のなかに眠った。
「て、てめえ!よくも仲間を殺りやがったな!」
「許せねえ、ぶっ殺してやる」
謎の男はひょいと両肩をすくめた。
「おいおい、ちょっと待った。こいつは不幸な事故だろう?」
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