第一章

5/8
前へ
/64ページ
次へ
 いつのまにか、少し離れた位置に、見知らぬ男が立っている。  異様ないでたちだった。  一見するに、剣士のようにも見えるが、鎧は着用していないようだった。  農夫がこれまで見たこともない服装だった。  あれが噂に聞いた、どこか遠い国の民が着用するというキモノだろうか。  その蒼いキモノと、雨避けのマントを身にまとい、足にはブーツを履いている。  足元に転がっているずた袋は、男の手荷物だろうか。  男は、口許に不敵な笑みをたたえたまま、無言で剣を突き出している。  それにしても奇妙な形をした、長い剣だ。    背にでも背負わないと持ち運びができまい。    その長さが野盗の蛮刀から、紙一重で農夫の命を救ったのだ。 「なんだてめえ、どっから現れやがった。邪魔する気か?」  男は応えない。口許にほのかな笑みを浮かべている。    次の瞬間、不思議なことが起こった。    野盗が男の剣に吸い込まれるように倒れる。  血しぶきが舞った。野盗の首筋から。 「な、なにが・・・」  野盗は自分の身に何が起こったのか、理解できない表情を浮かべたまま、血の泥濘(でいねい)のなかに眠った。 「て、てめえ!よくも仲間を殺りやがったな!」 「許せねえ、ぶっ殺してやる」  謎の男はひょいと両肩をすくめた。 「おいおい、ちょっと待った。こいつは不幸な事故だろう?」
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加