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「じ、事故だと?」
「見ただろう? この男が勝手に俺に斬られたがって倒れてきたんだ。俺は殺すつもりなんて微塵もなかったのに。自殺願望が強かったんだろう。可哀想なやつさ」
「なにをぬかす。ふざけるのも大概にしやがれ!」
「なめくさりやがって、死にくされ!」
激高した野盗ふたりは、いっせいに左右から襲いかかった。
「おいおい、事故だと言ってるのに―――」
男のマントが弧を描いた。
一瞬、野盗たちの視界が遮られる。
勢いそのままにふりおろされたふたつの蛮刀は、虚しく空を切った。
「な、何が起こった?」
「やつはどこに消えた」
男たちの背後から、ひと筋の銀光が宙にきらめいた。
どん、とふたつの生首が音を立てて落ちた。
その顔に驚愕の表情を刻んだまま。
と同時に、ゆっくりと二つの野盗の身体が、大地に吸い寄せられるようにどうと倒れた。
キモノの男は、ひゅひゅんと空中で剣の血しぶきを払った。
そのまま流れるような動作で、背中の鞘にその長大な刀身を収めた。
身をかがめ、転がっている自らの手荷物を拾う。さらに転がっている農夫の革袋も拾い、当然のような顔つきで、それをふところにねじこもうとした。
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