第一章

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「ちょ、ちょっと待ってくれ、助けてくれたのはありがたいが、それは俺の金だ」  農夫があわてて言うと、男は悪びれたようすもなく、 「おや、そうだったか。しかし妙だな」 「なにが妙なんだ?」 「恩を着せるつもりはないが、あの場で斬られていたら、お前さんの命はなく、この金もなかった」 「まあ、それはそうだな」 「なら命があってよかったで済むじゃないか。お金なんてくれてしまえ。俺に」 「いやいや、全部持っていかれたら野盗と大差ないじゃないか」 「……ふむ、おまえはこのあたりの者か?」 「そうだ、フフォーレというこの先にある村の住人だ」 「――では、こうしよう」  いかにも名案が浮かんだ、という態で、手の平に掌外沿をうちつける。  どこかわざとらしく見えるのは気のせいだろうか。 「俺は宿無しでな、お前さんの村に、すこし逗留させてもらえればありがたい。どうだ?」 「いや、しかし……」 「――それとも、追っ手が来た場合、自力で解決するか」  農夫は一瞬、考えるそぶりをみせた。  どこの誰とも知れぬ者をやすやすと村に招じ入れてよいものか。    しかしこの男が、自分の命の恩人であることには変わりない。
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