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「ちょ、ちょっと待ってくれ、助けてくれたのはありがたいが、それは俺の金だ」
農夫があわてて言うと、男は悪びれたようすもなく、
「おや、そうだったか。しかし妙だな」
「なにが妙なんだ?」
「恩を着せるつもりはないが、あの場で斬られていたら、お前さんの命はなく、この金もなかった」
「まあ、それはそうだな」
「なら命があってよかったで済むじゃないか。お金なんてくれてしまえ。俺に」
「いやいや、全部持っていかれたら野盗と大差ないじゃないか」
「……ふむ、おまえはこのあたりの者か?」
「そうだ、フフォーレというこの先にある村の住人だ」
「――では、こうしよう」
いかにも名案が浮かんだ、という態で、手の平に掌外沿をうちつける。
どこかわざとらしく見えるのは気のせいだろうか。
「俺は宿無しでな、お前さんの村に、すこし逗留させてもらえればありがたい。どうだ?」
「いや、しかし……」
「――それとも、追っ手が来た場合、自力で解決するか」
農夫は一瞬、考えるそぶりをみせた。
どこの誰とも知れぬ者をやすやすと村に招じ入れてよいものか。
しかしこの男が、自分の命の恩人であることには変わりない。
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