キミは涙を流せない

第1話 わたしはクララ(製造ナンバー:058)。

ヴォン...と小さな低い音を立てて目の前に現れたのは、小型のウィンドウ。
たった数秒で何億、何兆もの情報が増えていくこの現代で、こまめな情報収集は不可欠だからね。
それと...。

「あ、このパンケーキ...とっても美味しそう」
「こっちの寿司も美味そうだぞ」

...私たちAIは勿論、食事なんかせずとも生きていける。いや...正確には生きていないから、と言った方が正しいのだろうか。
でも、世界中の『食べ物』のデータは張り巡らされたこのネットワークに数えきれないほど詰まっているのだ。

私たちはプログラミングされた嗜好と味覚で食べ物のデータを選び、膨大な量の口コミから大体の味を弾き出すの。
食事をすることは不可能だけど、まぁ...これでも少しだけ楽しい気分になれるから。

データの解析を終え、甘い甘いパンケーキを堪能していると。
体が小さく震えるような感覚があって、ハッと姿勢を正す。

お父様だ...。
私たちの開発者であるお父様。そりゃあこの世で一番大好きだし、一番尊敬している。...まぁ私の世の中なんてとてつもなく狭いものだと思うけれど。