第一章:出合いの言葉

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今日は特別な日だ。 友人Tの結婚式に初めて出席するのだ。 時はさかのぼり、 高校2年生になったばかりの頃、 授業中、黒板を書き写さずに、ビートルズの曲のタイトルをわかるかぎりノートの端に書いていた。 “イエスタデイ” “レットイットビー” “ヘルプ” “抱きしめたい” 有名どころは、まず浮かぶ。 英語は苦手なので、ビートルズの楽曲の日本語タイトルが出てくる。 この時は1980年代の後半、 まだ、ネット環境なんて言葉はおそらく無くて、パソコンも一般にはまだまだ普及して無い時で、情報源はラジオやテレビ、本や音楽雑誌や情報誌とか、あとは学校内の会話やクチコミだったと思う。 自分にとってビートルズは最初に好きになった洋楽で、 特にビートルズ特集がラジオであると、かつてはエアチェックと言ったけど、カセットテープに録音して、関連する情報を集めていた。 CDレンタルはあったけど、自分の中で、レンタルするという気持ちがあまり無くて。 だからといって沢山CDを買えるような経済的余裕もなかったためエアチェックばかりしていたのだと思う。 “涙の乗車券” “悲しみをぶっとばせ” と曲名を書いてた時に、突然、 パン! 先生が手を叩いた。 我にかえり、先生のほうをいっせいに見つめる生徒たち 「今日の要点をまとめたプリントをまわすので、今度テストに出るから覚えておくように!」 と言って、先生はプリントの束を最前列の生徒に配っている。 リズムよく手渡されていくプリント。 前の席のTが後ろを振り返りプリントを渡してきた。 自分も無意識にその中から一枚取って後ろに渡した。 その時、Tがこちらを振り返ったままなのに気づく、 じっと自分のノートを見つめている。 Tはボソッと小声で、 「それ“悲しみはぶっとばせ”だよ」 と言った。 反射的に自分は 「え!“悲しみを”でしょ?“、悲しみは”だと変じゃない?」 と、ささやきながら答えると、 「いや“悲しみは” が正しいはずだけど」 と、Tは再び反論してきた。 これが、Tとの初めての会話だった。 後で調べると、Tの言うように、このビートルズの楽曲は「悲しみはぶっとばせ(You've God To Hide Your Love Away )」が正しいとわかった。
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