第四章:結婚式

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次は、自分とTによる “悲しみはぶっとばせ” 二人でアイコンタクトをして、 同時に3連符のギターコードをかき鳴らす。 二人でユニゾンで歌った。 式に出席していた人達のことは見えていなかったけれど、 もし、ビートルズ好きな人がいたら、どうしてこの選曲なんだろう?と思ったはずだ。 そう思われるのは、自分もTもわかっていた。 高校時代の二人で歌っている感覚がよみがえる。 あの狭い部屋の風景、 蝉の声が頭の中でリンクする。 もしも今、この歌を聴いたら、またあの近所の犬は吠えるだろうか・・・? そう考えたら懐かしさで何故か笑いが込み上げてきた、 笑いを胸の内に押さえ込みながら歌うと、幸いにも気が紛れ、緊張せずに歌えた。 全ての演奏が終わり、 三人でお辞儀をした。 歌い終わっても、新郎・新婦はバタバタと次のスケジュールがあったため、Tとはその日、結局ほとんど会話はしていない。 おそらく、普通の生活に戻っても、Tとは当分会わないだろう。 でも、Tの結婚式という意味あいを除いたとしても、自分にとって特別な日になったし、一生忘れないと思う。 またいつか、ビートルズの曲を二人で演奏する時が来るのだろうか? それもわからない。 ただ、もし、そんな日が来たとしたら、 自分は間違いなく、 「“悲しみをぶっとばせ”はどう?」 と聞く。 もちろん、Tは 「“悲しみは”が正しいはずだけど」 と反論する。 この曲は、自分とTの二人だけの合言葉であり、永遠の友情の証なのだ。
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