第1話

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「あの子新入生かな?」 「そうっぽいよね。新入部員第二号になるかも」  体育館とグラウンドを挟んで反対方向にある道場で、顧問が連れてくる男子生徒を窓から見て二人の女の子が呟いた。  すでに一人、入部して練習に参加している新入生がおり、入学式である今日から見学者が増えるだろうと予想されていた。  二人の女の子はワクワクしたように会話を盛り上げる。 「で、あの子は攻めかな? 受けかな?」 「見た目は受けっぽいよね!」  彼女達はホモ、ボーイズラブが好きな、いわゆる腐女子というやつだった。   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 「レスリングってこんな所でやるんだ……」  境也と別れ、道場と呼ばれた場所まで連れてこられた 海生は、思ったより広い練習場を見て驚いていた。  そこには青を下地に、中心を黄色と赤で丸く描かれたシートのようなものが置かれており、下には体育で使うマットが引いてあるようだ。  天井から綱引きで使われるような大きめの綱が延びており、何に使われるかはわからない。  木製の建物であり、中は広々としている。道場というだけあって床は板で出来ており、マットがなければ剣道でも出来そうな感じだった。  入り口から入って左奥の方にあるものに、心を惹かれる。  バーベルやそれを置くためのベンチプレス。その他にダンベルやサンドバッグ等が置いてあったのだ。  格闘技に少しだけ興味があった海生は、その強くなるための器具達を見て不覚にも目を輝かせてしまったのだ。  男の子であれば誰でも一度は感じたことがある強さへの憧れ、それを思い出した。 「いかんいかん見学だけ、見学だけだ。そもそも乳首見せながらやるスポーツだぞ?」  ボソボソと呟く海生に、ヤクザが声をかける。 「もうちょっとしたら部員も集まってきて練習始まるから、取り敢えず待ってなさい。今日は練習着も練習靴もないだろうから、見学だけしていくと良い。明日からお下がりの靴を持って来るから」  そう告げると少し用があるからと道場を出ていくヤクザ。もうヤクザの中で完全に入部することになっているようだ。見学だけして明日からバックレよう。そう心に決めた。
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