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大きなドラム缶の中、ごうごうと音を立てながら燃え盛る炎が、夜の更けた河川敷を煌々と照らしている。
真夜中であるとはいえ、今は八月の初旬だ。当然、焚き火などをして暖を取るような時期ではない。
しかし、そのドラム缶の側には、暗い色の帽子を深く被った何者かが、燃え盛る炎を眺めるかの如く静かに佇んでいた。
「…………」
口を噤んだままに、その何者かが自らの足許から拾い上げたのは、何かが綴られた数枚の用紙だ。
それを数秒の間見つめた何者かは、少しだけ躊躇うような仕種を見せた後、大きな溜め息を吐き出し、眼前のドラム缶の中へとその用紙の束を投げ入れる。
白色の用紙は、赤と橙色の炎に焼かれ、数秒と待たぬ内に黒色の塊へと姿を変えた。
「すみません……」
一体誰に向けてのものなのか、何者かの口からぽつりと溢れた謝罪の言葉は、火の粉の弾ける音の前に、呆気無く掻き消された。
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