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今夜は助手の悦子先輩に誘われて、ゼミ仲間と一緒に焼肉屋へと繰り出した。この場でもベン先輩は偏った持論を述べていた。
「ステーキの焼き加減はレアが一番だ、って言う女子がいるでしょう? 俺、そういう子がたまらなく好きなんだよね。血が滴るような肉を、むしゃぶりつくような子に惹かれるなぁ」
「あら、城島君。私たちって、気が合うのね。私もレアが一番好きなのよ」
猫がごちそうを前にして舌なめずりするように、悦子先輩がハラミ肉の焼き加減を見ながら嬉しそうにひっくり返した。
そんな二人の会話を聞いた途端、隣にいた山下弥生がドン引きしたのが手に取るようにわかった。
どうやら山下は肉が苦手のようだ。それなのに、ベン先輩会いたさで焼肉屋にまでついて来た。さっきから見ていると野菜しか食べていないようで、きっと腹をすかしていることだろう。
山下は俺と同じ農学部農芸化学科の三年生で、実験や研究を一緒におこなってきた仲間だ。大きな二重の目に厚めの唇、栗色のセミロングの髪の毛。派手さはないが「卒業」のエレーンを彷彿とさせるような清純で可憐な姿に、俺は入学当時から惹かれていた。いつもは白衣姿しか見ることがなかったが、私服姿の山下もなかなか可愛いと思っている。
でも、最近になって彼女がベン先輩に惚れていると気づき、俺は自分の気持ちをぐっと抑え込んだ。どう考えても安心君の俺は、王子様の先輩には勝てっこないからだ。
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