ミセスロビンソンと迷える子羊たち

12/46
前へ
/46ページ
次へ
 大学入学からの付き合いだし、二人きりなんだから、ここは本音で語り合おうと決めていた。返事はなかったが、見る見るうちに山下の顔が赤くなっていくのがわかった。そして、その表情から全てが読み取れた。 「前から思っていたんだけど、やっぱり……その、誰にも言わないから教えてくれ。お前はベン先輩のことが好きなんだろう?」  食えもしない焼き肉に付き合うくらいだ、好きな男目当てでなければ他に何のメリットがあるのだろうか? やっぱり山下はベン先輩が好きなのだ。 「そ、そんなことは……私は……私は!」  いきなり山下が立ち上がり大声で叫んだ。まともに会話が成立したことなどなかったから、彼女がこんな風に大声を出すこと自体が新鮮だった。 「山下、大きな声が出せるじゃないか。いつも何を言っているのかわかんない、ボソボソとした声しか聞いたことがないから驚いたよ」  真っ赤に染まった顔を下に向けて、山下は打ち明けた。 「ひ、人見知りが激しくて、話下手だし……それに、それに……あら? 今、お店でバイトを募集しているの?」  カウンターに置いてあったバイト募集の張り紙を見つけると、急に素っ頓狂な声を上げた。 「あぁ、昼間のバイトさんが急に辞めちゃってさ。土日だけでも入れる人、誰かいないかな?」
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加