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若い、可愛いと褒められて、完全に母ちゃん頬が緩んでいる。どんな女もこうやって褒められると、手放しで喜ぶものだろうか?
「弥生ちゃんだったかしら。お腹いっぱいになった? ゆっくりしてってね。義実、くれぐれも変なことしないようにね」
「おいおい、それをお前が言うか?」
母ちゃんが変なことをしたから、俺がここにいるんじゃないか。その言葉、母ちゃんだけには言われたくない。
こんな俺たち母子のやり取りを気にかける様子もなく、山下が横から口を挟んだ。そして、バイト募集の張り紙を手にして、にっこり微笑んだ。
「あのぉ……バイト募集の件ですが、私じゃ駄目ですか?」
その夜、山下弥生のバイト採用が即決したのは言うまでもない。自宅通学の彼女は短期バイトを複数掛け持ちしていたが、就活シーズンを迎えるため全て辞めてしまったらしい。だが、「スカボローフェア」の雰囲気が気に入ったので、土日だけでも働きたいと申し出たのだ。
「きっとベン先輩が喜ぶぞ」
「ど、どうして城島先輩の名前が出てくるんですか?」
「あの人はうちの店の常連だから」
「そ、そうなんですか?」
山下を喜ばせてあげたくて、俺はベン先輩の力を借りた。自分から告白できないようなら、ゼミ仲間の俺が手助けしようと男気を見せるつもりだ。それはイコール俺の失恋決定を意味するが、山下弥生の幸せのためなら努力は惜しまないつもりだった。
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