ミセスロビンソンと迷える子羊たち

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 一九六〇年代に活躍したサイモン&ガーファンクルは、クラスでもイケてないグループに属するような、冴えない風貌の野郎二人によるフォークロック・デュオだ。しかし、その見た目からは想像できない、「世界で最も美しいハーモニーを奏でる」と称される透明な歌声は、今でも多くの人々の心を掴んで離さない。  俺、小田義実(おだよしみ)の祖父もその一人で、脱サラして始めた喫茶店は彼らの代表曲にちなんで「スカボローフェア」と名付けられた。そこはコーヒー好きが集う、小さな憩いの場所だった。  やがて、祖父ちゃんから母ちゃんへと代替わりすると、店の経営方針は一新する。一人息子である俺のアトピーを治すため、母ちゃんは早い頃から自然食材やオーガニック製品を取り寄せていた。  そこで地元農家とタッグを組んで、祖父ちゃんの経営していた純喫茶を思い切ってオーガニックカフェへと路線変更しオープンさせたのだ。  もちろん、店名は「スカボローフェア」のままだった。歌詞に色々なスパイスの名前が登場することもあり、カフェのコンセプトと見事にマッチングした。  これが時代の波に乗り、近所のママさん連中に大反響。アトピーっ子のNPOまで立ち上げて、店は今でも大いに繁盛している。
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