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すると数年後、都内にある有名大学が誘致され、町はにわかに活気づいた。周囲には小さな子供がいるニューファミリーが、暮らす住宅が次々とできたのだ。
「ここは駅近物件だから喫茶店経営が立ち行かなくなったら、更地にして駐車場にしても、アパート経営をしても、きっと需要があるだろう」
生前、祖父ちゃんはそう言い残した。さすがは株でひと山あてただけあって、先見の明があったようだ。
「あら、よっちゃん。お帰りなさぁい」
俺とそう年の変わらない若いママさん連中が、今でも俺をガキ呼ばわりするのがたまらなく恥ずかしかった。NPOのサイトでアトピーに悩む三歳の頃と、アトピーを克服した七歳の写真が載っているのが諸悪の根源なのだ。今でも「七歳のよっちゃん」に会いに来たと、わざわざ地方からカフェを訪れる客もいるほどだ。
その間、祖父ちゃんと祖母ちゃんが事故で亡くなるという不運もあったけれど、母子二人が食うに困らず幸せに暮らしている。
母ちゃんは相変わらず「未婚の母」で、俺には未だ父親がいない。俺の知らないところで、ボーイフレンドくらいは作っていたのかもしれない。だが、カフェの経営者とNPOの代表責任者として奔走する母ちゃんに、男の影は見えなかった。
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