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「良いよなぁ、義実は。大学から徒歩五分のところに自宅があるんだから。一時限目の講義だって、いつも楽勝で出席できるだろう?」
「何を言っているんですか。ベン先輩のアパートだって、俺んちとたいして変わらない距離にあるでしょう? それなら、そんな文句は通用しませんよ」
「だって、お前には毎朝起こしてくれる人がいるじゃないか。朝起きれば温かい朝食も用意されているし、帰れば夕飯だって作って貰える。しかも、作るのはプロのちえみさんだぜ。俺なんか朝飯抜きで昼は学食、夜はコンビニ弁当。慎ましい四年間の大学生活で痩せ細る一方だったよ。この大学でお前みたいに恵まれた奴って、一体どれだけいると思う?」
「結構いるんじゃないんですか? 自宅通学の学生だって、少なくないはずでから」
まったくこいつの屁理屈には、毎回うんざりする。大学のサークルと学科の一年先輩でもある城島勉(通称ベン先輩)は、少女漫画にでも登場しそうな王子様風の麗しい容貌だが、偏屈で少々変態嗜好のある男だった。その外見に惹かれ告白する女子は後を絶たないが、この人の趣味にあう子はそうそういないらしい。
「あれ? いつものパツ金ヘビメタ姉さん、今日はいないの?」
「さやかさんのことですか? 彼女ならライブツアーが入ったらしくて、先週で辞めちゃいました」
昼間のバイトのさやかさんはヘビメタバンドのベース担当で、メジャーデビューを目指し活動している。この度、めでたいことに全国規模のライブツアーが始まるそうで、バンド一本に精を出すとバイトを辞めていった。それなので、臨時で俺がカウンターに入っていた。
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