ミセスロビンソンと迷える子羊たち

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「あの人、クセが強かったからなぁ。このお洒落な店の雰囲気と、全く似合ってなかったんだよねぇ」  年上好きのベン先輩は土曜日のランチ時になると、若いママさん目当てでカウンター席を陣取っている。 「それより、あの人って舌にピアスしていただろう? あれってキスする時にどうなんだろうって気になったんだ。でも、残念ながら聞く機会を失っちゃったなぁ。義実、お前はその辺のことを聞かなかったのか?」 「いや、俺は興味がなかったから、何も聞いてないですよ」 「だよなぁ。俺だってあの人のことは、舌ピくらいしか気にしてなかったもんなぁ」  さすがの女好きもさやかさんだけは好みのタイプではなかったようだ。彼女がいなくなったことを悲しんでいる様子はなそうだった。 「すみません、食後のコーヒーをお願いします」 「はい、今すぐお持ちします!」  おっと、いけない。客から催促の声がかかってしまった! 今の俺は先輩と油を売っている時間などなかった。 「ごめん、勉君。ちょっと手伝ってくれる? ちゃんと時給払うからさぁ、お願い!」  ランチのクソ忙しい時間帯に、厨房にいる母ちゃんも悲鳴を上げていた。 「喜んで! ちえみさんのお願いなら、なんなりと」  尻尾を振りながら主人のご機嫌をうかがう犬のように、先輩がカウンターの中に入って手伝い始めた。
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