ミセスロビンソンと迷える子羊たち

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 母親とカフェの二階で暮らしているため、俺は周囲の女子から「草食系の安心君」と呼ばれている。  平均値よりも低い身長一六七センチの華奢な体に、母ちゃん似の小作りな顔立ちは、良くも悪くも特別な印象を残さないようだ。こうやってベン先輩の隣に並ぶと、女性の視線は全て先輩の方へと向けられる。  男に生まれたのだから、女にモテたいと思うのは当たり前のこと。でも、俺にはやり逃げした前科のある、父ちゃんの血が流れている。この忌まわしい出生が原因となって、俺は男としての自信が持てずにいた。  そう、決してモテないからではない。敢えて誰とも付き合ったことがないと、この場で主張しておこう。そして、間違いを犯してはならぬという気持ちが強すぎて、異性と接することに臆病になっているのも確かだった。  父親がいない俺にとって、男とは何たるものかを教えてくれたのは祖父ちゃんだった。昭和二十六生まれの小田和幸(おだわこう)は、「男は黙ってなんぼ」という古臭い観念を持ち続けた男だった。その祖父ちゃんの教えを受け継いだ俺は、草食系というより高倉健を気取っているつもりだが、平成生まれの女子には伝わらないのが現状だった。
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