初の王都へ

1/9
426人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ

初の王都へ

 ロッカーナからの馬車に乗り込み、クリフは幌の隙間から過ぎていく景色を見ていた。  十人くらいが余裕で座れる中型の馬車の中には、クリフともう一人、ピアースだけだった。 「寒くないのか、クリフ?」 「寒いけれど…なんか見納めにしないとって思って。王都行ったらなかなか帰れないだろうし」  ロッカーナの門がゆっくり遠くなっていく。  近年じゃいいことよりも辛い事の方が多かったけれど、それでも故郷であるのは変わらない。感慨深い気分で過ぎていく景色を見ていた。  とっ、後ろから突然ワシワシと髪をかき混ぜられて、クリフは「わっ!」と言って後ろを睨む。見ればピアースが人好きのする笑みを浮かべていた。 「んな悲しい顔をしなくたって、帰って来ればいいだろ? 俺は時々帰るし、その時にさ」 「…うん、そうだね」  あまり残してきたもののない故郷だったけれど、クリフはたまには帰ろうと思う。それは隣で笑うピアースがいるからだった。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!