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初の王都へ
ロッカーナからの馬車に乗り込み、クリフは幌の隙間から過ぎていく景色を見ていた。
十人くらいが余裕で座れる中型の馬車の中には、クリフともう一人、ピアースだけだった。
「寒くないのか、クリフ?」
「寒いけれど…なんか見納めにしないとって思って。王都行ったらなかなか帰れないだろうし」
ロッカーナの門がゆっくり遠くなっていく。
近年じゃいいことよりも辛い事の方が多かったけれど、それでも故郷であるのは変わらない。感慨深い気分で過ぎていく景色を見ていた。
とっ、後ろから突然ワシワシと髪をかき混ぜられて、クリフは「わっ!」と言って後ろを睨む。見ればピアースが人好きのする笑みを浮かべていた。
「んな悲しい顔をしなくたって、帰って来ればいいだろ? 俺は時々帰るし、その時にさ」
「…うん、そうだね」
あまり残してきたもののない故郷だったけれど、クリフはたまには帰ろうと思う。それは隣で笑うピアースがいるからだった。
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