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冗談ではなく本当に依久はその手の能力が皆無だ。おまけに見るどころか、気配を感じることすらできない。そのくせ依坐としての器だけは桁外れにでかいので、得体の知れないものに近づけたくない、というのが清司の本音だった。
まぁ、心配の必要はないといえばないのだが。
「とにかく平気なおまえが元の場所に戻しとけばいいんだよ。触らぬ神に祟りなしって言うだろ」
「ちぇっ」
蒼太は諦めたのか、お茶を飲み干して立ち上がる。
「じゃあ、そうするか。神社にそうしろって言われたって言っとくからな」
悔し紛れの捨て台詞を残して、蒼太は縁側を下りて帰って行った。
清司が再びおみくじ作りを始めようとした時、隣から依久が低い声で尋ねた。
「あやつをあのまま帰してよいのか?」
清司はため息をついて項垂れる。
「ヒメさん。神様がそんな頻繁に降りてきたら、ありがたみがなくなるよ」
清司の家では五十年に一度、神移し神事が行われる。依久はその時、なんたらヒメと言う名の女神の依り代となった。その縁で清司と結婚したわけだが、それ以来時々、何の前触れもなく依久の中に神が降りてくる。
清司が以前に比べて真面目に神社の仕事をしているのは、親に小言を言われるだけでなく、神様本人に小言を言われることがあるからだった。
「未だに我が名を覚えておらぬとは嘆かわしい。おまえのような不真面目な祭主を野放しにしておいては、わたくしの気が休まらぬわ」
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