01.孤独な死

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後に残るのは、深く深く眠る幼子と、彼女を愛おしげに見下ろしながら抱く男のみ。 「おやすみ。目が覚めたらそこはきっと、君にやさしい世界だ」 ──今度こそ。そう呟いた男は、長い銀髪を揺らして、もう一度、幼子の額に口づけを落としました。 彼女が、次の生では倖せになれるように。沢山の愛情を与えられ、幸福に生きられるように。願いを込めて。 男は自分の腕の中で永眠る幼子の、安心した、穏やかな表情を見て、──幼子を抱いたまま、まるで幻のように、暗い家の中から姿を消しました。 彼らのいなくなった後に残ったのは、幼子がいた痕跡がほんの少しと。人の気配が完全に失せた、暗く寒い部屋だけ。
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