1930人が本棚に入れています
本棚に追加
/349ページ
眠りに落ちる前、幼子を抱いていた、温かな手の持ち主はいません。
見覚えのない場所。独りぼっち。寝起きの故の心細さ。それらからじわりと視界が滲むのを感じながら、幼子は身体を起こします。
……、…ん……?
幼子は身体を起こせるという状況に小首を傾げ、一瞬の間の後、自分の身体を見下ろします。
そして、その、幼子特有の大きな瞳を、溢れんばかりに見開きました。
──幼子は驚きました。とてもとても、驚きました。じんわり滲んだ涙が、驚きで引っ込んでしまうくらい。
服は、眠る前に着ていたサイズの合わないパジャマとは違って、汚れのない、所々に繊細な模様の描かれた、可愛らしい白のワンピースに変わっており。
白い肌に目立っていた、お母さんが叩いた為に出来た赤紫色の痣も、薄っすらと残っていた傷跡も、綺麗に消えていたのです。
空腹感は残っていますが、眠る前にあれほど感じていた身体の不調は、嘘のようになくなっていました。
最初のコメントを投稿しよう!