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きゅるるる……。お腹が眠る前と同じように、切なく鳴きます。
見慣れない白のワンピースに隠されたお腹を恐る恐る触って、幼子はお腹が空いたなぁと考えました。
幼子は幼稚園や学校に通ったことはありません。自分の年齢もよくわかりませんが、お家の小さな窓から時々見えた、ランドセルを背負った子供たちは、幼子より背が高く見えました。
暗く、狭い家の中だけが世界だった幼子。知識は元々あった絵本数冊分と、時々お母さんが教えてくれること、それだけです。
ですが本能的に、このまま森の中にいるだけでは、生きられないことはわかりました。
幼子は何も知りません。ここがどこなのかも、お母さんがどこにいるのかも、ご飯がどこに行けばもらえるのかも、何もわかりません。
知っているのは、きっとあの温かい手の持ち主が幼子をここに連れてきて、怪我や不調を治し、新しい洋服を与えてくれたことだけ。
その、温かい手の持ち主も幼子の近くにはいません。
それならば、幼子が選ぶ行動は一つだけ。
あの温かい手の持ち主を、そしてお母さんを探す為に、幼子は行くべき方向すらわからない森の中を歩き出しました。
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