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──幼子がゆっくりと森の中を歩み始めて、小一時間ほどが経ちました。
森には人が通るために舗装されたような道はなく、あるのは獣道ばかり。
行く先などなく、ただただ森を彷徨い歩いていた幼子は、慣れない長距離移動に乱れた息を吐きながら足を止めました。
幼子の前には、太陽の光を浴びてキラキラと輝く、透き通った湖がありました。
疲労からふらふらと頼りない足取りで、湖に引き寄せられるように歩く幼子。
殆ど変わることのない緑色の景色、誰もいない心細さを押し殺して、ようやく見つけた変化です。
湖は水底まで透き通っており、時折小魚が泳いでいるのが見えます。
幼子は喉の渇きから湖のほとりに膝をつき、柔く幼い手を水につけました。
森の奥の湖の水はひんやりと冷たく、手で掬って飲めば、疲れた頭がスッキリとします。
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