03.魔獣と、うつくしい獣

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幼子を捕えられなかった魔獣と、恐ろしい外見の魔獣に固まってしまった幼子の時間は、すぐにまた動き出しました。 魔獣は獲物に避けられたことを何とも思っていないのか、感情の伺えない動きで体制を立て直し、再び幼子に食いかかろうと機を伺います。 そんな魔物の動きによって幼子の硬直も半ば強制的に解け、恐怖心と生存本能に背中を押される形で、魔物が動き出すより前に大樹の根元から駆け出しました。 逃げ込むのはたくさん木がある森の中。幼子は、森の中に駆け込んだ方が逃げ切れる可能性があると考えていたのです。 ……ですが、幼子は所詮人の子。まして、走ることなどなかった身体はすぐに悲鳴を上げ、手足はまるで鉛の重しをつけたように動かすのが辛くなります。 息が乱れ、肺が痛み、バクバクと破裂しそうなほど大きな心臓の音ばかりが聞こえて、道無き道を駆ける足は擦り切れ痛みを訴えます。 でも、それでも足を止めるわけにはいきません。涙を零すわけにはいきません。 すぐ後ろに明確な悪意を持って、魔獣が幼子を追いかけていたのですから。 ……追いつかないが、決して見逃さない。獲物を嬲るような狩り方を好む、魔獣がきていたのですから。
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