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幼子は一度も後ろを振り返ることなく、森の中を走りました。視界は恐怖から涙で潤み、今にも溢れてしまいそうでしたが。
振り返り、悪意と殺意に塗れた魔獣が追ってきている姿を見ないことで、最後の一線が決壊するのを防いでいたのです。
魔獣は、幼子が必死に森の中を逃げるのを、生きたいと必死になるのを嗤っているようでした。
付かず離れず。時に姿を消し、時に不意打ちのように現れ。
少しずつ傷つけ弱らせながら、獲物が弱り果て、足を止めるまで執拗に追い、そして喰らうのを愉しむ魔物。
塗り潰されたように真っ黒な顔の中に、爪で引っ掻いたように細い眼が嗤っています。
そして、幼子が押し寄せる疲労に走る速度を落とした時。魔物の鋭い爪が、幼子の背を引き裂きました。
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