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「あ゛っ……!」
死へ追いやられる恐怖心と疲労によって意識が混濁し始めていた幼子は、背中に感じた鮮烈な痛みに悲鳴を上げ、走っていた速度のままに地に倒れ込みました。
膝や腕が地面に擦れ、鈍い痛みが広がりますが、背中の熱と痛みを超えることはありません。
痛みに泣き声を上げてしまいたくなりますが、走り続け乱れた呼吸がそれを邪魔し、不規則な呼吸音が響きます。
白いワンピースにじわじわと広がる熱。白を染める赤い色。
不器用な呼吸によって酸欠に陥る頭で、あの温かい手の持ち主がくれただろうワンピースをぼんやりと見た幼子は、ゆっくりと近付いてくる魔獣から逃げるように這い、距離を取ろうとします。
痛いのは、嫌で。またあの暗闇がやってくるのは、恐ろしくて。──あの手がくれたお洋服が汚れるのは、悲しくて。
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