03.魔獣と、うつくしい獣

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自分の命を狩り取るため、振り上げられた魔物の鉤爪。奇妙に歪んだ魔物の顔。 それらに、幼子は絶望に染まった目を見開き、ひゅうと喉を鳴らして身体を凍りつかせました。 ──今まさに命を脅かそうとしている魔物の姿が、自分のお母さんに重なって見えたのです。 幼子はお母さんが大好きでした。理不尽に怒られても、叩かれても、ずっと帰ってこなくても。たった一人の家族なのです。 けれど、何度も何度も受けた心の傷は深く。振り上げられた魔物の足は、幼子を叩く為振り上げられた手に。 歪んだ魔物の顔は、幼子を傷つける時だけ笑ったお母さんの顔に重なって見えたのです。 それは、何より強く幼子の心を痛めつけ。追い詰められた幼子に、絶望を与えるよりもひどく、逃げることを放棄させるほどの恐怖心を与えました。
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