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幼子の命を脅かそうとしていた魔物が倒されたのは、ほんの一瞬の出来事でした。
風と共に駆け、その気配を認知させるより早く的確に、魔物の急所である喉笛に喰らいついた、漆黒の獣。
耳障りな絶叫が魔物の口から飛び出すのが聞こえ、幼子は地面に飛び散る真っ黒な液体に動くことを忘れました。
鋭く細められた黄金の瞳が、冷ややかに地面に押し倒された魔物に向けられ、めちゃくちゃに暴れた魔物の足が届くより前に、獣はトドメをさします。
森に響いていた魔物の悲鳴は次第に細くなり、──やがてその身体は、ピクリとも動かなくなりました。
ゆっくりと魔物の死体から身を離す、漆黒の獣。
その口から魔物の血と思われる真っ黒な液体が滴り落ちますが──木漏れ陽の下、幼子の方へ顔を向け、一定の距離を保ったまま動かない獣に、不思議と恐怖心や嫌悪感は抱きません。
向けられる黄金の視線は凛としていて、幼子の様子を伺っていても、敵意や悪意を向けることはなかったからでしょうか。
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