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幼子を怖がらせないよう、極めて優しく声をかけたつもりでしたが、突然の問いかけに驚いたのか、それともこの質問自体が嫌なのか。
少々大袈裟なほど跳ねた幼子の肩に、男は黄金の瞳を見極めるように細めます。
幼子は名を訪ねる問いかけに、はくり、と口を動かします。…けれど、その小さな口から声が出ることはありません。
もちろん幼子は声を出せます。ですが……脳裏に蘇るのは、お母さんからの言いつけ。
──いい?家に誰かが来ても、声を出しちゃダメ。声を出したり、何かを聞かれて答えたりしたら、また叩くからね。
その言いつけが幼子を縛り、声を出そうとしても躊躇してしまうのです。
自分とお母さん以外の誰かがいる場所で無理に声を発しようとすると、きゅうと喉が締め付けられるように苦しくなります。
無意識に自分の喉に触れ、苦しげに顔を歪める幼子。その様子をじっと観察していた男は、幼子に気づかれないよう、ひとつ溜息を落としました。
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