1936人が本棚に入れています
本棚に追加
「あぁ。……呼びたくなければ呼ばなくていいし、必要があれば好きに呼べばいい」
あまり器用とはいえない言葉をかけられますが、幼子は何度か名前を確かめるように小さく口を動かします。
る、か。るか。…ルカ……。
何度唇が動いても音が聞こえることはありませんでしたが、見た限り、幼子の恐怖心や苦しさはなくなったようで、男──ルカにはそれで十分でした。
ふと見上げた空、濃紺の中で輝く星の位置が変わってきているのに気づくと、ルカは焚き火に向き直り、今日はもう休むようにと声をかけます。
魔物に傷を負わされた幼子をいつまでも起こしておくわけにはいきません。有無を言わさない響きを持った言葉に、幼子はあぅと口を開きかけますが。
まるでルカの言葉がきっかけになるようにやってきた睡魔に口を閉じ、ゆらゆらとルカの後ろ姿に瞳を揺らしたものの、大人しくぬくぬくと温かい毛布の中で身体の力を抜きました。
最初のコメントを投稿しよう!