第29章 Fragile(壊れもの)

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       「今だ!」       爆発により建物が倒壊することで塵と      埃に身を隠す。この機会をメアリーは      待っていた。       透馬は振り向くとメアリーではなく      リディアに近づくと下から足に手を      回しひょいと持ち上げた。     「な、何を」     「つかまってろ、一気に飛ぶぞ」       突然の行動に驚くリディアを後目      に透馬は両脚に力を込める。収縮された      CNT人工筋肉を一気に解放することで      2人はロケット推進でも得たかのよう      に垂直に飛び上がった。       2人に続いて、海燕も同様に両脚を      踏ん張る。珪によるパワーアシストも      相まって透馬たちを超えるスピード      で跳躍した。          「最後は我々だ。いくぞ」     「ああ、いいぜ。美女と一緒ならどこまでも      お付き合いしまずぜ」       冗談を言うイライアスだったが、      メアリーの反応があまりにも薄かった      ため妙な空気になってしまう。頭を      抱えるイライアスを無視し、メアリー      は彼に肩を貸す。     「ま、待って……まだ心の準備が」     「いいから黙ってろ!」       オロオロと狼狽するふりを見せる      イライアスにメアリーが吠える。彼      の腰に手を回して身体を固定すると      一気に天井方向に飛びあがった。              モールの各階にある手すりを      踏み台にして次々と上層階に移動      する。くしくも透馬が機関銃を破壊      しようとした時の動きをそのまま      トレースした形になる。       計画通りなら吹き抜け部分が倒壊      する前に屋上まで到達し、そのまま      脱出する算段だ。まず一番質量の      軽い海燕が最上階に到達した。      そのまま天井を覆っている格子状      のガラスを体当たりで打ち抜く。       砕け散った細かいガラスの粒が      細雪のようにステージに降り注いだ。      2階から飛び出しステージに着地した      ベンジャミンは敵がどこにいったの      かすぐに理解した。             ベンジャミンはすぐに天井を      見上げる。高速で落下するガラス片      も彼にとってはスローモーションに      見えた。驚異的な視力が逃亡しようと      しているリディアたちを捕捉する。     「逃がしはせんよ」       ベンジャミンはハンドガンを      連射する。弾倉が空になると地面に      投げ捨て、腰のマチェットを引き      抜いた。そして大きく振りかぶると      ブーメランのようにマチェットを      投擲した。       マチェットは風切り音を放ち      ながら高速回転し、楕円軌道を      描いて飛んで行く。重力に逆らう      ように上昇していくそれは吸い      込まれるようにリディアの脇腹      に深く食い込んだ。
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