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序章 -出会いー
「動くな! それ以上近づいたらこいつは死ぬ!」
煙が立ち込める中で男は叫ぶ。全身から汗が滴り声を震わせる。
男の右手には銃はあり、左腕に首を巻きつけられた女性の頭に
突きつけられている。
男の手は、引き金に指をかけ何かきっかけがあれば
暴発するくらいに震えている。目線は目の前にある黒い影
に向けられていた。黒い影は人のようではあるが、双眸は
深紅に輝き、煙が充満している中でも存在感を放っている。
「お前なんなんだよ。何をしたんだよ!」
男は黒い影に向かって再び叫んだ。恐怖のためか声は上ずり
トリガーにかけた指に力が入る。黒い影は何も語らずその場に
立ち止まっているが、男の頭に銃口を向けている。
その状況で銃を突き付けられた女性は涙を流す。まだあどけない
容姿に成人ではないことがわかる。薄汚れたドレスから見える
肌は健康的で、思春期の少女のそれである。右頬には殴られた
ような痣が残っており、口からは血がうっすらとにじんで見えた。
少女はこの危機的な状況にもかかわらず、天井を見上げ
ふとつぶやく
「なんでこんなことになっちゃったの?」
その声は小さかったが、銃をつきつけて人質にとった男
にも聞こえた。
「あぁ? なにも言うな黙ってろ!」
男からドスの聞いた声が発せられたが、少女はただ天井
に目を向け、うっすらと涙を流すだけだった。
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