第3章 深紅の塔(クリムゾン・タワー)

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  土曜日を迎えた。   どこまでも青い空が広がっており、潮の香りがすぐ側まで近づいて   くる。そこにひと際目立つ建物が印象的に映る。純白ではなく   黄色かがった白を基調にしたそれは天空まで届くかのように   見えた。太陽の角度からちょうど昼を過ぎたようだった。   その建物を遠くから一人の少女が眺める。少女はフード付きのパーカーに   ショートパンツという出で立ちで道路を挟んた路地からのぞき込んでいた。   少女はポケットから携帯端末を取り出し、そっと耳に当てた。   「聞こえる?いまどこ?」   花蓮は建物を見ながら端末に話しかける。   「聞こえている。近くにいる。」   端末からクリアな声で透馬の返事が聞こえた。      「近くってどこよ。」   「見えないところだ。」   花蓮は透馬の言葉に思わず周りを見渡したが誰も見つけられなかった。   「なんか静かね。誰もいないみたい。警察の人も見えないし。」   花蓮は不思議に思った。      「世間も今日テロが起こると予想していたからな。誰も好き好んで   危険な目に会いに行かないだろう。だがなぜ警察がいないんだ?」   透馬も同様に建物の周りに警官がいないことを怪しむ。        数秒後、透馬が花蓮の端末に情報を転送する。   「おかしい。所轄も公安も日野にある第一工場に人員を展開している…。    なんでここを手薄にするんだ。」   「これどうやって入手したの?」   花蓮は端末に転送された情報を見ながら驚いた声を上げた。   「それは秘密だ。だが第一工場を攻撃するメリットってなんだ?    ホテルの事件は陽動なのか……。なにか悪い予感がする。」   透馬は複数の疑問が浮かび上がり、情報を整理しようとするが   答えがすぐに出てこない。透馬は花蓮の返事がないかと思ったが   電話越しからなにも声が聞こえない。   「どうした?」透馬は心配になり声をかける。   「う、うん。なんかここに来たことがあるような気がして。」   花蓮は目の前にそびえたつ象牙(アイボリー)(タワー)を   見ながら妙な感覚に襲われた。頭のどこかに記憶があるがうまく   引き出せないもどかしさがあった。   「デジャヴか?」        
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