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透馬は確認するように尋ねた。
花蓮は象牙の塔をじっと眺めながら答える。
「よくわからないけど……。大丈夫。」
花蓮はじっと見上げていた。目線は遥か天空まで届くだろう建物に向いていた。
その建物の高層階、多くの人が一室に集まっていた。スーツに身を包んだ
老若男女が規則的に並ばれたテーブルに座り、壁側では談笑したり挨拶が
頻繁に行われていた。そこにひと際目立つ深紅のドレスを身に着けたいちかが
父親と一緒にいた。父親は傷を受けた額に絆創膏を貼っていたが、血行は
よく非常に健康そうに見えた。
いちかが身に着けたドレスは東雲界都から送られたものだった。いちかは
拒否したが、父親の立場をこれ以上悪くしたくない気持ちが勝り、渋々了承
した。だが実際会場に足を運ぶと界都の真意が見えてきた。スーツ姿しか
見えないこの状況で一人浮いたドレスを着せるとは辱め以外の何物でもなかった。
いちかは顔を真っ赤にして父親の横に立つ。父親は表情で娘に謝っているように
バツの悪い顔をしていた。周りを通る社員たちも奇異の目で通り過ぎる。
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