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界都は吐き捨てるように言うと一瞥をくれてそのまま離れていった。
界都を見続ける巽の目は怒りとも悲しみとも取れる感じだった。
そのあと今度は別の男が巽に近寄る。巽は顎をくいっと動かし
男はそれに反応し、巽に耳打ちをする。
「博士ですが、研究で忙しいとのことで参加されないそうです。」
男は巽の側近だった。側近の報告に巽は顔をゆがめる。
「今更なんの研究だ……。もうなにも残っていないというのに。」
巽の言葉を聞き側近は頷く。
「確かに仰る通りです。ですがいまだに研究費用を要求するとは、
いつまで彼を擁護するつもりなのですか?」
巽は自分の頬をゆっくりと触る。弾力があり艶やかなその肌は
老化という言葉とは程遠い存在だった。
「彼の生み出したものは我々に多大な成果をもたらした。
だが……もう限界だな。決断の時ということか……。」
巽は側近になにか耳打ちした。
「かしこまりました。然るべく手配します。」側近はそそくさとその場を
去っていった。
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