第3章 深紅の塔(クリムゾン・タワー)

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  象牙(アイボリー)(タワー)は静寂に包まれていた。先日までは抗議デモ   が正面入り口で行われておりニュースでも流れていて警官隊も出動していたのが   嘘のようだった。入口からガラス越しで見えるロビーには警備員が立っているのが   見える。   その入り口を道路越しに遠くで見ていた花蓮は、夢遊病者のように歩き出した。   正面入り口を避けるように迂回し裏口の方に回り込む。目の焦点ははっきりと   しておらず自分の意志ではないように見えた。ポケットに入れた携帯端末は   ひたすら振動を繰り返しているようだがそれすら気づかないようだった。   「花蓮、花蓮。返事をしろ。」   透馬は何度も呼びかける。彼は花蓮が隠れていた路地の建物の最上階にいた。   先ほどから様子がおかしかったのは気になってはいたが電話にもでないのは   普通じゃなかった。      屋上から花蓮の様子を確認すると彼女はゆっくりと裏口の方に歩いていく。   その先には地下駐車場の入口があった。ふと透馬が周囲を見渡すと   1台の乗用車が止まっていた。彼女の隠れていた場所から離れていたが、   型式の古い車に違和感を覚える。透馬はその車に目線をやり凝視する。     「あれは確かあの時の……。あんなところで何を?」   古い車には2人の男が乗っていた。   「なんか様子がおかしいな?あの子。」   悟朗は双眼鏡で花蓮の姿を追う。そしておもむろに   助手席に座っている男の頭をはたく。   「痛っ!」   「何ゲームしてんだこんな時に。」   携帯端末で何かのゲームをしている秋晴に悟朗は叱咤した。   「だって悟朗さん暇じゃないですか。テロとか絶対起きないですよ。    あの子何しに来たのか…。」   悟朗と秋晴はあの事件の後も引き続き花蓮の監視を続けていた。    今日彼女が象牙(アイボリー)(タワー)に出向いたことは   正直驚いたが二人は仕事として後を追った。あの事件のとき秋晴に   感づいた花蓮に警戒し離れたところに車を止めていた。                     
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