第3章 深紅の塔(クリムゾン・タワー)

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 昨日部隊を展開してNBの潜伏先と思われる廃墟を捜査した際、第一工場を  標的としている証拠が出てきた。だが容子は自分の勘に従い工場への   人員の配置をためらっていた。その後彼女の携帯端末に連絡があった。  「浜崎くん。状況は?」   低いトーンで男性の声がした。  「窪田管理官。」   容子はかしこまった口調になる。直属の上司のためだ。    「三浦・カルロスからの情報に基づき、潜伏先に突入しました。すでに   被疑者は逃亡しており現場を捜索中です。」   容子は現状を逐次報告した。だが窪田管理官からの返事は思いもよらぬ   ものだった。   「第一工場が標的という証拠が出たそうだがなぜそれを報告しない。」      容子は驚きを隠せなかった。なぜその情報が管理官まで入っているのか   理解できなかった。  「た、確かにそのような証拠が出てますが、まだ確定しているわけではありません。   やはり本社ビルへの攻撃の可能性を考慮するべきかと……」  「本社ビル攻撃の証拠はあるのか?君の勘だろう?明確な証拠がなければ我々は   いまある情報を元に進めるしかない。」  「し、しかし……」容子は食い下がる。  「所轄と公安を第一工場に総動員してNBの襲撃を防ぐ。これは命令だ。」  「了解しました……」   窪田管理官の強い口調に容子は不満がありながらも従わざるを得なかった。   容子はその時のことを思い出すたびに不機嫌になった。自分の中にある   気持ちとの剥離が彼女を苛立たせる。その時ポケットにある携帯端末が   振動する。それは容子のプライベート用端末だった。先ほどから何度も   引っ切り無しに着信があるが容子はそれをすべて無視していた。容子は   端末を取り出すがそこに書かれている着信者の名前に彼女は辟易とする。   度重なる着信で容子の怒りも我慢できない状況になった。   彼女は唇をかみながらプライベート端末を耳に当てた。   「何の用よ!」容子は激しい口調で答える。   「やっと出たか。俺だって用がなければかけねぇよ。」   その声は悟朗だった。      容子はテントの外に出て人目のつかない場所まで移動する。   「いまさら何よ。一体何年連絡してこなったのよ。」   容子はご立腹だった。  
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