第3章 深紅の塔(クリムゾン・タワー)

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 地下駐車場は閑散としていた。社員の車がまばらに停車している。  その奥に1台のトラックが停車していた。そのトラックの向こう側には  大型のエレベーターが1基確認できる。研究資材などの搬入用で鈍色に  輝く扉が見えた。  トラックの荷台は箱型になっており、後ろの扉が大きく開く。そこから  十数名の人間が降りてきた。みな防弾べストに自動小銃を肩にかけて  いる。後から現れた数名は大きなケースを両端で持って降りてきた。  彼らはケースをエレベーターまで運ぼうとしていた。一人で持てない  くらい重量のあるものだとわかる。  その時駐車場の入口側から大きな音がする。それは車のスリップ音だった。  金切り声を上げるように下り坂を曲がった一台の乗用車が武装した集団  の視界に入る。車はスピードを落とすことなく直進する。坂と平面の  接合部分で車の底面がかすり火花が飛び散る。  「ちょっとちょっと、どうするのよー!」  花蓮は透馬の無茶な運転に思わず叫ぶ。  「このまま突っ切る!」  透馬は迷うことなくアクセルを踏み込む。  直進する車に気づいた集団は肩にかけた自動小銃を構えセイフティを外す。  正面に立ち両手に構えて狙いすまし一斉に射撃を開始した。銃口が光り  複数の光を描いて車に一直線に向かう。銃弾は車のボンネットやフロントガラス  に直撃する。弾がガラスに穴を穿ち放射状にひびが入る。    「きゃぁ!」花蓮は銃弾を避けるように助手席の下に上半身を潜り込ませる。  透馬は全くひるむことなく運転を続ける。  「車の中にいろ!」  「ええっ?」  透馬の突然の言葉に花蓮は言っている意味が理解できない。次の瞬間  運転席のドアを思い切り開くと同時に左に大きくハンドルを切った。  車は運動方向が変わり運転席側を銃口に見せるようにスピンさせる。  それと同時に運転席側のルーフパネルをつかみそれを支点にして  体操の鉄棒のように外に飛び出した。  銃を持った集団は予想外の動きに面を食らう。透馬はそのまま回転宙返り  を繰り出しながら着地する寸前に両手から銃を出し2発撃ち出した。  放たれた銃弾は正確に2人のテロリストの首先に命中し電気ショックを  受けてその場に崩れ落ちた。車はスピンしたままテロリストの死角まで  滑っていった。      
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