第3章 深紅の塔(クリムゾン・タワー)

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  花蓮は柱の影に隠れて体を小さくしていた。先ほどの透馬の   言葉を反芻する。花蓮の体は震え、顔は蒼白になっていた。   つい今しがたまで銃声が終わりなく鳴り続けていたが、いつの間にか   何も聞こえなくなった。それはテロリストの壊滅を意味していた。   透馬は花蓮を置いてこの場を離れた。「少し待ってろ」と一言を残して。   1分くらいすると透馬が姿勢を低くして花蓮の側まで帰ってきた。手には   何個かの手榴弾と肩から銃を2丁ぶら下げていた。そのうちの一つを   花蓮の目の前に差し出す。   「これは……?」   「MP5。サブマシンガンだ。セイフティーは解除している。」   「これでどうしろっていうの?」   花蓮は恐る恐る手で銃に触れる。透馬はその姿をじっと見つめる。      「今から自分はあの2体を引き付ける。そのスキに君はあの搬入用    エレベーターに乗ってNBを追いかけるんだ。これがきっと役に立つ。」   「でも私銃なんて撃ったことない。これで人を殺せっていうの!?」   花蓮は叫ぶ。その目には涙がにじんでいた。   「今の爆発で発表会のある大ホールは封鎖されたはずだ。奴らもすぐには   侵入できない。警察もこちらに向かっているからそれまで時間を稼げばいい。」   透馬はまじまじと花蓮を見つめながら冷静に答える。   「でも……でも……怖い。」   花蓮は目を背けボロボロと涙を地面に落とす。    透馬はゆっくりと仮面をはずし、彼女の細い手にゆっくりと触れる。   その手は冷たかった。   「気持ちはわかる。だけど君が動かなければ大切な人達が    死んでしまう。君にしかできないんだ。最初に会った時のこと    覚えているか?」   「うん。」   「俺の仮面を蹴り飛ばしただろ?テロリストから自分で身を守っただろ?   あの時の君を出せばきっと何とかなる。俺は君を信じてる。」   透馬は両手を握り花蓮に顔を近づける。   花蓮の中で何かが変わった。こぼれる涙をぬぐい銃を手に取る。   「わ、わかった。何とかやってみる……」   透馬はそんな彼女を見てうっすらと微笑む。   「よし。合図したらエレベータまで走るんだ。決して下を見るなよ。」   透馬はもう一つの銃を構えて備えた。                
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