第3章 深紅の塔(クリムゾン・タワー)

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  経営計画発表会が行われる大ホールでは皆が中央に固まっていた。地下   での爆発音の影響でセキュリティシステムが作動した。外のガラスは   強化シャッターで塞がれ、廊下に繋がる入口は大きな扉だったがいまは   完全に閉まっている。扉は分厚い強化複合金属製で銃弾や手榴弾程度   では傷一つ付かない。象牙(アイボリー)(タワー)が厳重と言われる   所以である。   「どうか皆さんご安心を。ここは安心です。すぐに警察来ます。」   社長である東雲巽は大声で不安に駆られる社員を安心させようとしている。   社員たちはがやがやと声を上げているが混乱はないようだった。その中には   いちかと父英雄もいた。二人はまた同じ目に合うのかと思い強い恐怖に   襲われた。いくら安心といわれても納得できるものではない。二人は   その恐怖を打ち消すようにお互いの体を引き寄せあった。   「いちか大丈夫か?」   英雄は娘に心配かけさせぬと気丈に振る舞う。   「父さん……怖いよ……。」   いちかの目には薄っすらと涙が見えた。  同時刻、東京の某所上空に一台の中型ヘリが飛んでいた。  ヘリの向かう先はぼんやりと視界にはいる象牙の形をした建物だった。    ヘリの中には武装した警官隊。そして容子と部下の池田も搭乗していた。  2人とも防弾べストを見にまとい窓から外の様子じっと眺めていた。  日野にある第一工場から品川まで車で行くのは間に合わないと判断し、  警察航空隊からヘリを手配したのだ。容子は部隊を引き連れてNB制圧に  向かう。  「後どれくらいだ?」  容子はパイロットに向かって大声で尋ねる。  「あと15分ほどです。」  パイロットの回答に容子は頷く。    「よし。本社ビルに到着したら専用ヘリポートにそのまま着陸する。場所は   45階の大ホールだ。敵は重火器で武装している恐れがあるため   細心の注意を払え。地上からの増援が到着すれば挟み撃ちできる。」  容子は後方に座っている警官隊に指示を出す。警官隊は黙ってうなずいた。  容子がふと横を見ると池田の手が震えているのが見えた。  「こんな実戦は初めてか?」  「はい……。」  「誰にでも初めてはある。心配するな。私の後についてこい。」  容子の言葉に池田は気が楽になったようだった。
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