第3章 深紅の塔(クリムゾン・タワー)

35/43
前へ
/2335ページ
次へ
  ポールからの声がアレックスの耳に届く。強化外骨格はヘルメットを被ると   直接画像を投影する仕組みになっている。外部の情報は4つのカメラアイと   作戦指揮車からの通信により目の前にあるかのように見え、アレックスの   首の動きにトレースするよう画像も切り替わる。アレックスは俯くと2つの   足跡がくっきりと残った胸元の装甲板が映った。   手足に力を入れようとするも動く気配がない。通常であれば筋肉の動きを   トレースするはずだがなんの反応もない。そもそも力を入れているつもりだが   感覚が薄れておりアレックスは焦っていた。口からは血が滴り鉄の味を感じる。   内臓も痛めているようだった。彼は四肢の末端に力を集中すると両手が何とか   反応するようだった。油圧システムによるアシストがキリキリと機械音を立てる。   アレックスはアドレナリンが体を駆け巡るのを感じた。同時に怒りがこみ上げる。   どうしようもないどす黒い感覚は自分を傷つけた者への復讐心から生まれるもの   だった。彼は金属の左指を順番に動かす。特定の順番に指を動かすと左肩の   回転式グレネードが反応する。左肩を壁に引きずるように動かし発射口をある   方向に向けた。そこには黒い髑髏の男が背中を向けて佇んでいた。   「India2。アレックス!何をするつもりだ。」   ビリーからの通信がアレックスのヘルメット内にこだまする。   「今ならあいつをやれる。このHEDP(多目的榴弾)なら……。」   アレックスは歯を食いしばり明確な殺意を持って黒い髑髏に狙いを定める。   「やめろ!奥にはニール二等兵がいるんだぞ!」   アレックスの耳には届かなかった。彼は迷くことなくグレネードを射出した。     HEDP弾は真っすぐに黒い髑髏の背中に向かって飛翔していく。   その奥に燃料電池を抜かれて起動停止した強化外骨格の姿があった。   前のめりで両手をついて四つん這いのような恰好で固まっている。   その時不意に胸元の装甲が二つに割れ中身が露出する。そこには   一人の若い兵士が見えた。予備バッテリーを起動しニールが脱出しよう   としていたのだ。      それに透馬も気づくが同時に背中に向かって飛ぶ榴弾も察知した。   このまま躱せば射線上にいるニールはまず死ぬ。透馬は決断した。   
/2335ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加