第3章 深紅の塔(クリムゾン・タワー)

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 地下駐車場でHEDP弾の爆発があった10分ほど前、非常階段を花蓮は  駆け上がっていた。肩からサブマシンガンを下げ懸命に上を向いて  段差を登る。吐く息は荒くなるが立ち止まることはなかった。少しでも  早く大ホールに向かうことだけ考えていた。  搬入用エレベーターは地上30階が終点だった。このビルは30階までは  研究施設が存在し研究用の機械や資材を搬入するためだ。30階より上は  オフィスとなっているが一般用エレベーターは非常時で停止していた。  テロリストも登った非常階段を花蓮は追随していた。どれくらい登った  だろうか、階段の扉にある数字がやっと45を表示するところまできた。  「やっと……ここまで……」  ほぼノンストップで階段を上がってきたため花蓮の息も切れていた。  ゆっくりと深呼吸をする。数回胸が上下したところで落ち着いて  考えることができた。改めて自分の肩からぶら下がっている銃を手に取る。  最初受け取ったときは無意識に嫌悪していたが今は不思議と手に馴染んで  いるように思えた。前にも触ったことがあるような気がすると花蓮は感じた。  「いちか……待ってて……」  花蓮は緊張のあまり唾を飲み込む。そしてゆっくりと非常口の扉を  開き、隙間から覗き込んだ。  その先には大きな廊下が続いており、大ホールの扉が確認できた。  そしてその周りにNBのテロリストが6人、何かの準備をしていた。  数人が扉ではなく、その横の壁に長方形の物体を円を描くように  設置している。物体からはコードが伸びている。円の大きさは  人がトンネルとして潜れるくらいのサイズだった。  それがテレビやドラマで見た爆弾であることは花蓮も予想できた。  扉が分厚い強化金属製のためNBは壁のコンクリートをぶち破る方法を  選択した。指向性のプラスチック爆弾であれば容易に人が通る穴は  開ける。その後起こるであろう悲劇も彼女は想像できた。  残された時間はあとわずか。もうすぐ設置が終わりそうだった。  花蓮は恐怖を飲み込むように唇を噛みしめ、非常口の扉を大きく  開ける。そして廊下まで飛び出した。  「やめてー!!」  花蓮はMP5を両手で構え、テロリストたちの耳に響くくらいの  大きな声で叫んだ。
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