第3章 深紅の塔(クリムゾン・タワー)

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 花蓮の手は細かに震えていたが、もう後戻りはできない。構えたMP5は  大ホールの扉にいるテロリストたちに向けられている。引き金には指が  引っかかっている。少しのきっかけがあればいつでも弾丸が飛び出すだろう。  目線はテロリストたちに真っすぐ向けられている。だがまだ躊躇しているように  見えた。  彼女の声に気づいたテロリストたちは一斉に声のあったほうに向きを変える。  それは不自然な光景だった。明らかに10代後半の女の子がMP5を構えて  銃口を向けている。だが彼らが戦闘中にいつも感じている殺意はその子からは  出ていなかった。手前にいた男がおもむろに自動小銃を花蓮に向けた。  花蓮はそれに気づいた瞬間、心臓が波打ち全身の毛が逆立つ。襲い来る  恐怖に負け思わず指に力がこもった。MP5は銃口から火花を発し、  激しい火薬音を連発した。だが予想してなかった反動に花蓮の手が  上を向き銃弾は男の体から遥か上を通る。銃弾は天井に細かい穴を空けて  いき、穴の開いたところから塵が地面に落ちて行った。  花蓮は混乱し穴を穿った天井を見ながら呆然とする。その瞬間  1発の銃声が聞こえ同時に右腕に激痛が走る。その痛みに彼女は  MP5を地面に落とし、彼女自身もその場に倒れこんだ。視界の先には  先ほど手前でM4を構えたテロリストがいた。M4の銃口から白い煙が  薄っすらと漂う。花蓮は銃弾が右腕に命中し肉をえぐったことを理解した。  あまりの痛みに左手で傷口を抑え込む。体を左右に振り痛みを少しでも  和らげようと本能が働いた。左指の隙間から血が押されきれず流れ出す。  銃弾で大きく避けたパーカーの色がどんどんと変わっていった。  「あぁあぁあぁ……。痛い……痛い……」  ズキズキとする痛みに花蓮は涙ぐむ。そして自分を撃った男が  ゆっくり近づいてくるのを感じた。男はM4を構えたまま花蓮の視界  に全身が入るところまで歩いてきた。  「なんだこの女?」  男は倒れている花蓮を値踏みする。花蓮はその男の眼光の先にある  暗闇をみたような気がした。それはつまり人を殺すことに全く抵抗の  ない者の証だった。その闇に飲まれ花蓮の恐怖は増大し死を覚悟した。  「運が悪かったな。ここで死ね。」  男は花蓮の額に銃を向けて引き金を引いた。             
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